PROJECT

町役場の宝活

01_0W4A9567

Talk #02

企画振興課 課長

一家 剛

×
宝達志水町役場

田上 諭史

Theme

宝活が生まれた背景、宝活が目指すもの

宝活の仕掛け人、企画振興課の二人。町の計画策定など中心的な業務を担う彼らが、職員として、町民として感じるまちへの思い、そして、役場の職員という立場で参加する宝活を通じて目指す、この先の宝達志水町について伺いました。

企画振興課のしごと

――  企画振興課のお仕事について、おしえてください

一家: 町役場のなかでも幅広い仕事をしている課だと思います。課内は企画係と商工振興係にわかれていて、企画係は、町の総合計画など、さまざまな町の計画策定、取りまとめをしています。移住・定住促進事業も担っていますし、新交通システムとしてのコミュニティバスの運行もしています。商工観光係は、商業振興や観光振興、地域振興に取り組んでいます。

――  町の特色となる事業を進めている印象ですね。

一家: そうですね。新しい取り組みが多いのも、この課の特徴かなと思います。地域おこし協力隊も、企画振興課に所属しています。

02_YS__8531

「宝活」ってナニ?

――  そんな企画振興課が発起人となった「宝活(ほうかつ)」。サブタイトルは「宝達志水町を楽しくする活動」。さて、宝活とは一体何なのでしょう。

一家: 町民のみなさんに、このまちの魅力を再発見、再認識してもらうための活動です。このまちで知りたいこと、このまちでやってみたいことを持った町民たちが集まって、そのことについて話し合ったり、実際にチャレンジしたり、イベントを行ったり、活動内容を宝活Webサイトで共有したり。部活動のようなイメージにも近いです。

――  具体的にどういったことを行うのでしょうか。

田上: まずは「場」を設け、ざっくばらんに、このまちについて、まちのこれからについて語ったりしながら、「こういう話をするのが楽しいなあ」と感じてもらえる雰囲気づくりに取り組みたいと思っています。

――  「場」というのは?

田上: 物理的な場所や拠点という意味ではなく、きっかけとしての「場」です。このWebサイトも一つの「場」ですし、ワークショップなども「場」です。

ワークショップでまちについて語り、まちの未来像として「パン屋がほしいよね」と意気投合した人たちが、パン屋を作るための宝活をはじめたりする。そんな機会の場づくりをしたいなと。

リアルでの場とWeb上の場で相互にコミュニケーションを取りながら、盛り上がっていきたいですね。

このまちが暮らしやすいと感じる町民がいることこそ、
まちの価値だという発見

田上: 宝活が立ちあがったそもそもの背景には、国の地方創生事業の一貫として、昨年度に策定した「まち、ひと、しごと創生総合戦略」があります。そのなかで、人口減少を食い止めるためには、このまちならではの魅力を確立し伝えていく必要があるのではないか、地域ブランドを確立する必要があるのではないか、という考えのもと、「宝のまちブランド化推進事業」を進めていくことを定めました。

けれど、いざ、まちの魅力をPRしていこうとした時、いったい何がこのまちの良いところで、何が良くないところなのかということを、役場職員も明確に把握できていなかった。言葉で説明できないというか。そこでまず、このまちの価値をしっかりと浮き出させようと、事業に取りかかったんです。

他都市との生活コスト比較なども行いました。けれども、このまちの強みと弱みを知る上で一番ためになったのは、町民の方や役場職員を対象に行ったアンケートとヒアリングの結果でしたね。

町民の皆さんも、このまちを「良いところだ」「住みやすい」と思っていらっしゃる。その一方、やっぱり、どこが良いのか明言できないんです。皆さん漠然と暮らしていらっしゃると思うし、それでも十分に良いのですが、何かもったいないな、と。そこで、実際に暮らしているこのまちの価値を、まちの人たち全体で共有できると良いなと感じたんです。

――  役場職員も町民も、暮らしやすさを感じながら、どこがまちの魅力なのかよくわからないという状態だったのですね。宝達志水町の魅力は、と聞かれると、押水いちじく、宝達志水オムライス、宝達山、千里浜なぎさドライブウェイ、末森城跡などを思い浮かべますが。

田上: まちの魅力、ブランドというと、つい、町外へのPRや観光コンテンツに意識がいくのですが、ヒアリングを経て、町民がどれだけこのまちの暮らしに満足しているかということが、本当のまちの価値をはかる指標なのではないかと考えるようになりました。まちの人たちが、ここでの暮らしの魅力を理解し、さらに自らの言葉で伝えることができる。それがこのまちのブランドになるんじゃないかなと。

――  まちの人が「私たちのまちって、すごい住みやすいんだよね」と言っているまち。確かに、住んでみたいし行ってみたいですね。けれども、まちの人自身が暮らしやすいと思っているかどうか、という視点で取り組んでいくのは、自治体のブランド化のアプローチとしても、めずらしいのではないですか。

田上: あまり聞いたことがないですね。それでもやっぱり、「このまちでの暮らし」という部分が、一番大事だと考えています。

03_0W4A9312

目指すのは、既存コミュニティを超えて交わされるさまざまな対話

――  町民であれば、どんな人でも宝活できるのですよね。

田上: もちろんです。年齢、性別、職業、関係ありません。宝達志水町には大小52の集落があるのですが、もちろん集落の違いも超えて活動してほしいと思っています。

――  山側の人はおとなしく、海側の人はやんちゃといったような、集落ごとの違い認識もあるそうですね。

田上: そうですね。集落ごとに特色がありますし、今でも集落の活動が密に行われています。ただ、集落を超えた町全体での活動となると、少ないように感じます。

一家: 能登の他市町のお祭りでは、集落のキリコが一つの神社に集まるというような合同祭の形を取っているところもありますが、このまちでは、お祭りも集落内で完結することが多いですね。

田上: 集落のコミュニティって非常に重要で、精神的なつながりという意味だけではなく、田んぼの水管理や草刈りなど物理的にも地域を支えている存在です。一方で、若い世代などは、集落のつながりだけではなく、別の形でのエネルギーのあて方を求めている場合もあるんです。そのエネルギーをあてる場を提供することで、少しでも地域が元気になるきっかけになってほしいなと。

――  集落ではできなかったことを、宝活で取り組んでほしいということですね。

田上: 宝活によって、集落中心に行っていたコミュニティの形に都市的な要素が加わるのではないかと期待しています。保育所や学校、スポーツなど、集落とは別の関わりを持っている方も多いと思いますが、そこでは話せないテーマというのがきっとあると思うんです。

宝活を通じて、同じまちにこんな人がいたんだ、という発見や、人と人の化学反応のような良い作用が生まれれば、と考えています。

0W4A9444

宝活が、町民と町役場をつなぐ

田上: ヒアリングを行うなかで、町民と町役場の間にも距離があるという印象を強く受けました。良いまちにしたいという思いが同じでも、互いの思いを知ることができない。まちについて語るような機会もなく、関わりが少ないんです。同じまちに暮らす町民なのに。町民と町役場をつなぐ。それも宝活の一つの大きなテーマです。

――  宝活は、町民と町役場をつなぐ場でもあると。

田上: そうですね。宝活は、町民にやってください、とか、役場職員がやります、というものではありません。町民も役場職員も同じ場に立って、まちのことに取り組むというイメージです。

町役場がアプローチする、これからの宝活

――  この「町役場の宝活」も、町役場のしごとや職員の方の思いを伝え、町民と町役場の壁を取りのぞくためのコンテンツですが、そのほか、町役場として今後考えているコンテンツはありますか?

田上: 町内の企業さんの紹介かなと。まさに活動を一事業として取り組んでいる方たちです。役場として商工会への支援はしていても、所属している中小企業さんと関わりがあまりなく、見えてない部分もあります。改めて紹介することで、つながりのきっかけになればと思っています。

――  社長さんがどういう方で、どういう働き方ができるかということがわかるような形だと嬉しいですよね。雇用の新たなマッチングの可能性にもなる。

一家: 企業ではないですが、宝達山ファンクラブさんのように、自らがんばって取り組みを進めてきたさまざま団体もあります。それらの取り組みも、一つの宝活というなかで紹介し、応援したいと思っています。

ボランティアとしてまちに関わっていただいている団体さんも、最終的にビジネス、事業化していっていただくことが地域にとって良いのではないかと感じています。起業支援の場合は、県のサポートもありますし、さまざまな相談にのれると思います。

04_0W4A9281

「ちょっとやってみた」がイイ

――  お二人が一町民として、やってみたい「宝活」はありますか?

田上: 私は実家が農業をしているので、みんなで田植えしたり、稲刈りしたりという、小さなプログラムがあると良いなと思っています。ワークショップのように、みんなで集える場があって、その場で知り合いになった人に声かけして農業体験をしてもらうとかできたら面白いかなと。

――  同じように、小さなアイデアを持っている方が多くいらっしゃるかもしれないですね。

田上: はじめたからには長く続けなくては、と考えてしまう方も多いと思います。でも、宝活に関しては、全然そんなことないんです。どちらかというと、「とりあえずちょっとやってみた」みたいな(笑)。そんなところで良いと思うんです。起業したり事業化しようと思うと一気にハードルがあがるけど、軽いノリではじめてもらえればいいかなって。1回やってみてしんどいからやめる、っていうのでも良いと思うんです。そういう気軽さで宝活してほしい。

――  お店をやってみたい人が、幻の1日限定ショップを開業したって良いんですよね。

一家: そうですね。私は、自分で何かを立ち上げるというタイプではないですが、幅広い宝活が行われていて、興味があることに参加してみたいです。

――  参加するということも宝活だということですね。楽しいことがどんどんはじまりそうです。

役場職員であり、町民である二人が誇る、このまち

――  お二人自身は、一町民として、一職員として、どういう点が、このまちの暮らしやすいところだと思われますか。

一家: 私は生まれも育ちも宝達志水町の北川尻集落です。海側の、最も金沢寄りの集落なのですが。

――  「やんちゃ」と評判の集落ですね。

一家: そんなことないですけど(笑)。金沢までは車で30分くらい。自然が多く、買い物などの利便性も高いので、暮らしやすいです。日常的に北川尻の砂浜へも行きます。千里浜なぎさドライブウェイと同じ砂地なので、車で海岸線ぎりぎりまで行けます。夏はそのまま海に入って、そのまま車に乗り込んで帰ります(笑)。

田上: このまちならではの過ごし方ですよね。課長のお話と近いんですが、僕も、海と山の距離が近いという豊かな自然環境がありながら、ちょっと行けば都市的な部分に触れられるところに、このまちの魅力を感じています。僕はわりと田舎が好きで、大学卒業後にUターンして戻ってきているのですが、このまちは、金沢など地方都市に住むのとはまた違う距離感で子育てができます。田んぼとか山とか海とか、自然が本当に身近にある環境の中で、子どもたちが伸び伸びと過ごせて、それを地域の人たちが見守ってくれている。そういう精神的な豊かさもありながら、物質的にもそれほど不自由なくて、都市部との差もそれほど感じない。すごく、ありがたいと思っています。

あとは、子どもの医療費が18歳まで無料という点も自慢したいですね。条件付きですが、保育所も2人目以降無料となることも、親としてはありがたい。待機児童もゼロだから、保育所に入れられなくて困るということもないですし。

一家: 一軒家であれば、住まいにもあまり困らないと思います。最近は中古物件に移り住むという方も多いのですが、「住宅新築奨励金」は中古物件を購入した場合にもあてはまります。活用していただきたいですね。今後は、空き家バンクの登録も充実させていきたいと思っています。

田上: 町内の方が、町内で中古物件を購入し、移り住むということも増えています。最初は移住者をという視点で生まれたサポート制度ですが、新たなニーズも大事にしたいと思っています。

――  最後に質問です。お二人は、まちのどんな景色が好きですか。

一家: 私は家のすぐ近くに海があります。北川尻の海岸です。そこに沈む夕陽が好きです。180度、まっすぐ海と夕焼けで、誰もいないので独り占めです(笑)。

田上: 僕は家のすぐそばの田んぼです。日によって、夕陽が田んぼの水面を染めて、水面が瑠璃色になる時があるんです。暮らしのなかにしかない風景で、観光客の方が見ようと思って見られる景色とは少し違う。

あと、風景全体にちょっとノスタルジックな感じがあるところも魅力に思っています。

空の色が薄くて淡い感じがするところとか、音がないっていうところも。

あと、ディープスポットが多い。入り込まないと見えない、わからない良さがたくさんある。それを知ることも住んでいる者の楽しみの一つかなと。

――  一景色を語るだけではおさまらない、まちへの思いが伝わります(笑)。

田上: 好きなところが多くありすぎます(笑)。

課長は、宝活のビジョンってありますか?

一家:  まずはこのWebサイトを中心に情報発信していくことになるかと思います。町民の人も私も、見るのが楽しみなサイトになってほしいなと思っています。やっている人も見ている人も楽しい活動が理想ですね。

田上: 行政というと、ある程度決まった制度のもとで動いています。一方で、宝活は自由度を多く求められます。その狭間で活動する難しさはありますが、行政側としても、まちを楽しくするために、チャレンジしていきたいですね。

聞き手:安江雪菜 編集:鶴沢木綿子 写真:下家康弘

05_YS__8623