PROJECT

宝のお仕事自慢

01

#04

能登煙火

宝達山の麓に位置する東間集落。
ここは、代々伝わる花火師集団の住まう場所。
集落の子どもたちは、青年団の勇姿を見て
自然にそのあとを継ぐんだとか。

花火の爆発音と、沸き立つ歓声。
人びとを煌々と照らす彩り豊かな光。
その下、暗がりの中、ただ自らの手元を見つめ
もくもくと仕事をこなす彼らがいる。

火を目の前にすると、いろいろなものが削ぎ落とされ
普段は見えないその人のありのままの姿が露わになるという。

日本の四季の、はかない一片を彩る花火。
その一瞬、その一時。
誰かの心を震えさせるためだけに、
命にかかる火を扱う花火師たち。

もう、これはひとこと。
かっこいいー!

花火師集団、東間集落青年団

―― 能登煙火さんと、東間集落について、おしえてください。東間集落の青年団では、皆さん、花火師の免許を持ってるとか・・・。

嵯峨井さん:全員ではないですが、集落には「煙火打揚従事者手帳」といわれる、花火を扱うことのできる手帳を持っている人がいます。25戸中15人ですね。毎年、集落の花火大会(東間花火大会)が行われるんですが、青年団は花火大会の準備から打ち上げまで参加します。花火師の集団がいるという集落は、全国で見ると他にも例がありますが、石川県ではここ、東間集落だけですね。

能登煙火の会社には、集落とは別に、県内外の花火大会のお手伝いをしていただく登録花火師もいます。2017年現在、県内の20歳から68歳まで、40人くらいが登録しています。花火を打ち上げるのは基本的に土日なので、サラリーマンでも事業者でも、いろんな仕事の方が登録しておられます。

―― もともと、なぜ、東間集落で花火づくりがはじまったのでしょう?

嵯峨井さん:文献が残っていないので詳しいことはわからないんですが、おそらく明治の頃、能登煙火とは関係なく、旧押水町では約10の集落で花火づくりが行われていたと考えられています。「能登花火」と呼ばれるものですね。

なぜ押水かというと、この場所って能登と加賀と越中の国境の中心で、物流の分岐点なんです。富山では硝石の原料が採れるし、能登は炭が作られている。硫黄はどこから調達してきたかわからないですが、そういう重要な物資の中心地だからこそ、花火づくりが盛んだったと考えられますね。

能登煙火は、花火が盛んな東間集落にある手速比咩(てはやひめ)神社の宮司であった私の祖父が、昭和8年、花火会社を起こしたことに由来します。能登花火とは吹き出し花火のことなので、打ち上げ花火については、私の祖父が京都や新潟で勉強して持ち帰った技術のようです。

―― 東間花火大会のほか、どんなところに出向くんですか?

嵯峨井さん:県内では、和倉温泉や片山津温泉をはじめ、自治体や各地のお祭りで花火を上げています。県外では、岐阜県長良川の中日花火大会や三重県のナガシマスパーランドなどですね。あとは、結婚式の会場のそばのゴルフ場で、ブライダル用の花火を上げるということもあります。

02

能登煙火株式会社の代表取締役であり、手速比咩神社の宮司でもある、嵯峨井大民さん

とことん貫く、スターマインマインド

―― 花火の仕事の中で、こだわっているポイントなど、ありますか?

嵯峨井さん:やっぱりスターマイン(高速連射花火)ですね。スターマインでの、花火の色の組み合わせ、流れということにすごく気をつけています。あとは、音楽とシンクロさせて打ち上げるということにも重きを置いてます。

―― スターマインって、たくさんの花火を組み合わせて連続的に打ち上げながら、ひとつのテーマを描き出すものですよね。どうやって考えるんですか?

嵯峨井さん:例えば、オープニングのスターマイン、半ばのスターマイン、フィナーレのスターマインと分かれている場合は、3台について、それぞれ流れを考えます。1台の長さは、予算に応じて変わりますね。僕たちは商売でやっていますから、予算に応じてどのくらい玉を使えるのかを計算して、可能な範囲の中で演出します。

まあ、東間の花火大会とかだったら、地元なので、儲けもなにも考えないで自由にやっていますけど(笑)。

―― ストーリーを頭でイメージしながら、毎年、違う流れを考えるのですか?
 
嵯峨井さん:そうですね。その現場ごとに、お客さまが喜んでくれるものは何かなあと想像して、イメージを作っていきます。なかなか考えが浮かばないこともあって、産みの苦しみを味わうこともありますけど、一旦方向性が決まると、どんどん乗っていっちゃうので、時間を忘れて気がつくと夜中になっていた、ということもしばしばです。

音楽スターマインだと、音に花火のタイミングを合わせるので、音と光のタイムラグももちろん計算して、筒から発射するタイミングで曲を合わせたり、上空で合わせたり、工夫しています。

―― 毎年、企画や流れを考えるのって大変ですね。

嵯峨井さん:これは人には恥ずかしくてあんまり言えないんですけど・・・、映画とか音楽とか、ミュージカル、特にアメリカナイズされたショービジネスを努めて見るようにしています。繊細で計算しつくされた演出を見るたびに、「うわっ俺、しょぼいことしてるなぁ」っていつも思いますよ。花火の仕事をやってるときは一生懸命ですけど、「まだまだできるぞ、もっとやれるぞ」って感じさせてもらいますね。

03

能登煙火のスターマインは、数々のコンクールで受賞している

―― 最近だと、どんなミュージカルをご覧に?

嵯峨井さん:舞台ではないですが、「美女と野獣」を映画館で。クライマックスの持っていき方とか、曲の使い方とか、勉強になりました。以前は、劇団四季が大好きで、よく観覧しに行ってましたよ。あと、セリーヌ・ディオンの舞台には、相当、影響を受けましたね。シルク・ドゥ・ソレイユの方と一緒にタイアップしてる、「A New Day…」っていう。

―― ちょっと意外な回答でしたね。もっと和風なイメージでした。

嵯峨井さん:もちろん、和のイメージも大事にします。花火の色で、炭が燃える赤色だけが発光する「和火(わび)」という色があるのですが、それを連続で上げ、「ダダダダダ」という音を重ねるという演出をしたりします。これは、完全に和の魅力ですね。

音だけが鳴る花火というのもあります。スターマインの間に、音だけの花火を挟むという微妙な演出で、見ている人を盛り上げる工夫もします。色とか光はないんだけれど、音が体に伝わるのですごく豪華にも感じます。

こんな繊細なことがお客さんに伝わるかどうかはわからないですけど、とにかく自分が考えられる目一杯のことをしないと、良いものができないと思ってます。自己満足だって言われたら、そうなんだけど・・・。

―― お父さんの時代は、たまや~、の時代ですよね?

嵯峨井さん:1発1発、打ち上げていましたね。もちろんスターマインって言われるものはありましたが、1発打ち上げて、スポンサー名のアナウンス「◯◯さん、ご提供~」ってのが入る。今はもう、ほとんどの現場で、スポンサー名は最初に言って、あとは途切れなく花火を楽しんでいただくスタイルに変わってきましたね。

04

集落をつなぐ、花火大会

―― 東間の花火大会ですけど、毎年毎年、観客が増えてるとか。

嵯峨井さん:毎年9月の最終土曜日に、農村公園で開催されているのですが、年々お客さんは増えてますね。車の台数だけでも1000台を超えます。もちろん、下の国道からも、海の近くからも観覧できます。けれど、農村公園で間近に見る花火というのがすごくいい。それを体験しちゃったら、みんな翌年から公園まで上がってくるので、放牧場に用意した駐車場までの道は大渋滞です。

―― 車で1000台を越えるということは、それ以上の数の人が見に来ているということですか。地域の人も大変ですね。

嵯峨井さん:僕ら花火師も花火現場へ入る前に、まず交通整理を行います。ただし、実際の打ち上げに関わる人は、あんまり気持ちの変化があると危険が伴うので、交通整理もせずに、現場に張り付きます。1時間くらいはその場の空気を吸ってないとダメなものですね。違う仕事をして、いきなり来てさっと打ち上げ、というのは非常に危険が伴うんです。みんな、自分の中のルーティンがあるので、シミュレーションして、気持ちを整えて本番に臨みます。

05

花火大会の様子。間近で見られるのが醍醐味

―― 東間の花火と、能登煙火として関わる他の花火、何か違いはありますか?

嵯峨井さん:東間花火大会は、全部で5台くらいスターマインがあるんですが、最後の大きいスターマインだけは私が担当しますが、あとの4つは、青年団の団員がそれぞれ担当して、考えるようにしています。みんな素人だけど一生懸命考える。なかなかおもしろいですよ。みんな熱いし。自分が考えたスターマインを打ち上げて、お客さんが喜ぶというのは、東間青年団だけしか味わえない醍醐味ですね。

あと、クライマックスも見どころです。打ち上げ花火を豪華に上げた後、しっとりとした音楽とナイアガラの滝を重ねた、ある演出をするんですけど、これね、本当に泣いちゃう人がいるんですよ。もう拍手喝采です。そして、花火が無事終了したら、音楽を流したまま、東間青年団の団長の挨拶を重ねて、最後を締めくくります。

こうして、東間の人たちの夏は終わります。

―― 東間青年団の人たちの達成感に満ち溢れた表情と、物悲しい秋の夜の虫の声を想像して泣きそうになってしまいました。この花火大会、集落の団結力にもつながってそうですね。

嵯峨井さん:区の決め事も、問題なく決まる傾向はありますね。区の集まり以外に花火の集まりがあるから、コミュニケーションも普段からとっているし。

集落にはいろんな人がいますけど、中心に花火の行事があって、みんながひとつになるタイミングがあることは、本当にこの集落にとって良いことだと思います。小さい頃からみんな苦労して花火大会を手伝ってきてますし、地域の方のお世話になりながら、お客さんに花火で喜んでいただくという、達成感を感じながら続けてます。

アコガレの花火師

―― 東間の花火師になりたい!というときは、東間集落に移住すれば良いんでしょうか。

嵯峨井さん:そうですね。青年団に入れる年齢なら、青年団に入っていただければ参加できますよ。従事者手帳も、講習を受ければ取得できます。

ただ、火を目の前にすると、本当にその人の人となりが、ものすごくわかってしまいます。普段かっこつけていても、火を前にしたら急に、フニャとなる人もいっぱいいる。逆に、普段おとなしくても、毅然として仕事できる人もいますし。花火師は取り繕おうとしても、素の自分が出る仕事なので、ある意味恐ろしいですよね。

06

スターマインの筒。この一つ一つに玉を詰めて打ち上げる

―― ますます魅惑の世界観ですね。ちょっとハマると抜けられなさそう。花火師に引退ってあるのですか?

嵯峨井さん:動かなくなって、人に迷惑かけるようになったら(笑)。ただ、いろんな役割があるので、年を重ねても永く続けることができるんです。若い人と同じ仕事をする必要はない。役割分担があり、適材適所でできる仕事をします。

―― ちなみに、危ない目にあったことは?

嵯峨井さん:ありますよ。でも、交通事故の割合に比べたら、全然、安全ですから。はっはっは

―― はっはっはっ・・・って。ちなみに女性の花火師ってあり得るんですか?

嵯峨井さん:現在、能登煙火に女性の花火師はいませんが、全国的に増えてきていますよ。花火は圧倒的に女性が見ることを好むものなので、女性の目線はとても大事です。私も、妻の意見をよく取り入れるようにしています。

―― 最後になりますが、毎回、仕事における「宝」を聞いてるんですけど、やっぱり玉なだけに、嵯峨井さんの宝は、花火ですか。

嵯峨井さん: もちろん花火もそうですが、それ以上に「人」ですね。能登煙火に携わってる人、一人ひとりのおかげで今がありますから。

青年団員含め、社員、そして妻といった「人」に、常日頃、助けられるところも多いですし、大事にしなくてはいけないな、と感じてます。

(取材:安江雪菜 撮影:下家康弘 編集:鶴沢木綿子)

07

先輩後輩の二人。在庫がない花火も「どうにか用意してくれ」と、譲らない性格を持つ歴代こだわり青年団であり役場職員の岡野さん。その甲斐あって?素晴らしいスターマインを考案。嵯峨井も驚きの出来だったそう