PROJECT

宝のお仕事自慢

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#07

御菓子司たにぐち

おだまきといえば宝達志水町。
宝達志水町といえば、おだまき。
そして、
おだまきと言えば「たにぐち」でしょう。

そう豪語する、御菓子司たにぐち代表の谷口さん。

おだまきが宝達志水町でなにより有名だと言い切る
一見おどろくようなビッグマウスの谷口さんですが
その言葉の裏にある
おだまきへの愛と誇り
そしてこの町への想いもまた
並々ならぬものなのでした。

宝達志水町のおだまき、
おだまきのたにぐち

――御菓子司たにぐちと、谷口さんについておしえてください。

谷口さん:御菓子司たにぐちは、父がはじめた和菓子屋で、昭和39年創業。今2代目です。

私自身は、小さい頃から店を継ぐように洗脳されてましてね(笑)。父や母がよく働く人やったんで、朝方の3時とか4時頃にトイレに起きたら、もう仕事してるような状態で。若い頃から店を手伝ってもいたし、自分で「この道に進むんやな」ってことは意識してました。だから大学進学など一切考えず、高校卒業後すぐに金沢の和菓子屋に修行に出て、昭和63年、22歳の時にここに戻ってきました。

小さい頃はね、勉強すると祖父に怒られたんですよ。「勉強したら、大学に行きたいとか会社に勤めたいとか言ってお菓子屋を継がなくなるから、勉強しなくていい」って言われてね(笑)。夏休みの宿題は、1回もしたことないですね。ただ、「IQだけは高い」ってまわりに言われ続けてますんで、それだけを誇りに今まで生きてきました。

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御菓子司たにぐち店主、谷口義則さん

――さっそく、谷口さんの、谷口さんたる所以がわかった気がしました。
ところで、「おだまき」は、いつ生まれたのでしょう?

谷口さん:ルーツははっきりわからないんです。おだまきそのものは、古くからある土地のお菓子なんです。うちのおばあちゃんが小さい頃に買って食べたって言ってたくらいだから、かなり昔からあったんでしょうね。父が、おだまきを商品として売るようになったのは、私が小学校の4、5年くらいだったと思います。

宝達志水町(旧志雄町)は、昔、加越能(加賀、越中、能登)の中間地点の宿場町としてすごい栄えとったみたいですね。糸の原料の苧麻(ちょま)がたくさん生産されていて、機織り場も多くありましたし、繊維産業も盛んでしたよ。その糸を束ねたものを「小田巻」って呼ぶんですが、おだまきの形はそこから由来していると言われますね。

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表面の細いラインは、糸の束をイメージして描かれたもの

――宝達志水町のおだまきって有名ですもんね。

谷口さん:町のなによりも有名でしょう(笑)。宝達志水町のイメージというと、おだまきって答える人は圧倒的に多いと思いますよ。


――たしかに、逆に、お菓子のおだまきで他の場所ってあんまり浮かばないですしね。

谷口さん:ほらね、俺も町に貢献しとるよね(笑)。なにかしら「宝達志水町のたにぐちです」「宝達志水町のおだまきです」って、枕詞に町名をつけて宣伝してますから。

地元の人と食材へのリスペクトおだまき

――おだまきを作るにあたって、こだわってらっしゃることってありますか?

谷口さん:まず、地元、石川県産のコシヒカリを使うっていうのがこだわりですね。おだまきって、もち米でつくるお餅じゃなくて、米粉の団子なんです。だから材料が良くないと、もっちり感が出ない。

あとは、いちじく、栗など、なるべく宝達志水町もしくは能登に関連した食材を意識して使っています。金沢柚子は、輪島の柚餅子総本家、中浦さんの金沢柚子を使っています。くるみ味噌餡も定番商品ですが、味噌餡というのがこの辺の土地の味なんですよね。僕は、竹内のみそまんじゅうでおなじみ、竹内くんをリスペクトして作らせていただいております。

※柚餅子総本家中浦屋:石川県輪島市にある和菓子屋。明治43年の創業以来、輪島銘菓「丸柚餅子」を昔ながらの方法で製造している。
※竹内のみそまんじゅう:石川県七尾市にある和菓子屋「味噌まんじゅう本舗 竹内」のキャッチコピー。みそまんじゅうが定番商品。


――おだまきの美味しい食べ方ってあるんですか。

谷口さん:できたてが一番おいしいです。日が経つにつれて、もっちり感も薄れていくんで、できるだけ新鮮なうちに召し上がっていただきたいです。毎日朝から手づくりしているので、店頭で買って召し上がっていただくのが一番おいしいんですが、県内一円のスーパー、道の駅のと千里浜、道の駅高松、金沢医科大学病院、不定期でめいてつエムザさんで販売してます。東京有楽町の、むらからまちから館にも卸してます。


――今は、何種類くらいのおだまきが楽しめるんでしょう。

谷口さん:常に5種類、用意してます。つぶあん(白)、よもぎ(緑)、いちじく(ピンク)、くるみ味噌(紫)の4種類が定番商品で、季節によって1種類が加わります。おだまきを旬のものとして召し上がっていただきたいので、春はさくら、いちご、夏は冷やしずんだ、秋は能登栗、冬は金沢柚子といった感じで、四季のおだまきを作ってます。

「5つ」っていうのが収まりが良いんですよね。私も、ゴレンジャーで育った世代なので、5つ揃うと嬉しい感じがしてねえ(笑)。

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店頭には常に、できたての5種類のおだまきが並ぶ

おだまきの転機は、ひょんなことから

――いちじくおだまきも、定番商品なんですね。

谷口さん:いちじくのおだまきは、2005年、旧志雄町と旧押水町が合併して宝達志水町ができたときに作ったもので、今ではうちの定番商品になってますね。市町村合併に際して町の名物のお菓子を考えてほしいと北國新聞の記者さんから依頼があったのがはじまりです。その方は、記事にしたかったみたいで、「谷口さん、なんか合併の記念に作ってみません?」って。


――へえ。この町の合併がきっかけだったんですね。

谷口さん:正直、私はそれまで宝達志水町ができることに対して反対だったんです。名前も長くなるし、合併するなら市になってほしかったのに、町から町になっただけだったし。ショックやったんです。だから、「合併の記念のお菓子なんて絶対つくる気ないわ」ってその記者さんにも再三断っとったんです。でも、その記者の人が本当にしつこくて(笑)。それで、いちじくのおだまきをひねり出して作ったら、それがあたっちゃったんですよ。

当時は白いおだまきしかなったんですけど、いちじくのおだまきを作ってピンク色にしたら、ちょうど紅白になってね。またまた合併が3月だったんで、入学祝いとか、お祝い返しにもってこいってことで、テレビや新聞に取り上げていただいて。

それまで店頭販売だけだったのが、羽咋市のあるスーパーさんから、「いちじくのおだまきと普通のおだまきを卸して」って言われたのがきっかけで、実店舗以外でも販売するようになりました。

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谷口さんにもハッピーを運んできた、紅白のめでたいおだまき

――予想外の展開だったんですね。

谷口さん:本当、その記者の方には非常に感謝しています。異動で遠くに行かれてしまったんですけど、今でも彼の名刺はうちの神棚に祀ってあります(笑)。


――神棚とは。額に入れているかなとは思いましたが、予想を超えてきましたね。

谷口さん:実際、いちじくのおだまきから派生していって、いろんなおだまきを作るようになりました。最終的に5種類になるんですが、種類は徐々に増えていったんです。箱に入れる時、いろんな色があったほうがカラフルでかわいいんですよね。今の人って視覚で入るところも大きいので、味はもちろん、見た目の華やかさとか可愛さもだいじなんじゃないかと、気がついたきっかけでもありました。


――これからも、新しい「おだまき」は誕生しそうですか?

谷口さん:常に考えてますよ。今はね、シャインマスカットのおだまきを考えています。ルビーロマンもなんとかしておだまきにしたいけど、できても、1個数千円になっちゃうんで・・・。そんなもん、「おだまきにせんと、そのまま食わせろ」って話になるんで(笑)。とにもかくにも、町の食材と絡めたお菓子を作りたいですよね。

町のみなさん、いろいろとアイデアくれますよ。ハトムギとか、チンゲンサイとか・・・。

小学校の授業でも新しいおだまきを考えたりしてくださっているようで、「こんなの考えたんで作ってください」って小学校の生徒たちが来たりします。正直、内容はむちゃくちゃですが(笑)、ありがたい話ですよね。地元のおだまきを愛してくれて、新しいおだまき想像して作ってくれるなんて。


――地元に愛されてるんですね。お菓子のアイデアって考えるのも楽しいんですよね。

谷口さん:やっぱり楽しいですね。うちはおだまき以外のお菓子も作っているんで、私の息子も、あんなの作ってみたい、こんなの作ってみたいって言うんですよ。色々と挑戦してみればいいなって思います。


――息子さんも一緒に働いていらっしゃるんですね。

谷口さん:今、働いてるのは次男です。うちは男の子が3人いるんだけど、真ん中の子です。結構イケメンなんですよ。長男は長男で、うちを継ぐつもりで金沢の和菓子屋修行中なんですが、これがまた時間かかりすぎてて、なかなか帰ってこないんですよ(笑)。店は、基本的に家族4人で経営してます。

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おだまき愛はスマートホンの中にも。写真は春限定、いちごおだまき

おだまきにはじまり、おだまきに終わる

――さて、残念ながらお時間も迫ってきました。最後に恒例のご質問を。
あなたにとって宝をおしえてください。

谷口さん:おだまきでしょうね。(即答)


――おお・・・。
でましたね。きれいに決まりました。

谷口さん:これがなかったら、今の私がいないって言っても過言ではないですし、一生の生業として大事にしたいお宝だと思ってます。大切に、大切に、にこれからも作りつづけたいです。

まあ、野望を語ればね、もっと、もっと売りたいですよ。なんといっても、自分自身が「おいしい」って思ってるからね。おだまきは、能登から全国へ発信できるようなおいしいお菓子だと信じてますし、メジャーリーグにあがってほしいと思ってますよ。本当においしいから。

とにかく今は、みなさんに知ってもらって、食べていただけるように、地道にコツコツ、がんばります。

 (取材:安江雪菜 撮影:下家康弘 編集:鶴沢木綿子)

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