PROJECT

宝のお仕事自慢

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#10

村昭繊維興業

北川尻集落の田園の中にたたずむ数棟の建物。
明るい工場の中では、最新の設備が整然と並び
若者からベテランまで多くのスタッフが
真剣なまなざしで、それぞれの仕事に向き合っている。

そう、ここは、世界につながる糸工場。

難しくないことだけれど、大事なこと。
それをひとつひとつ、毎日続けていく。
それが、胸を張って誇れる品質を生む。

代表取締役社長の昭代史さん、
息子の昭都史さんに脈々と流れ継がれる村昭のお仕事精神は
機械をとおる糸道のように、まっすぐで揺らぎがない。

お二人のお話を聞いていると、
なんだかこちらまで誇らしい気持ちになり、
すっと姿勢を正したくなるのです。

糸に機能を持たせる仕事

―― 村昭繊維興業と、お仕事の内容について、おしえてください。

昭代史さん:うちは、昭和26年に創業したのがはじまりです。いわゆる戦後の復興産業の一貫で、機屋として、父と母の2人が事業をスタートしたんです。もともと「市村織物工場」という名だったんだけれども、昭和41年8月に「村昭繊維興業 株式会社」に改組しました。先代が「昭治」という名前だったので、名字の「村」と、名前の「昭」をとったのが会社名の由来です。

昭都史さん:業務では、糸の加工を専門に行っています。主に「仮撚(かりより)加工」と呼ばれる加工によって、かさ高の糸を作っているんです。これは簡単にいうと糸にパーマをかけているようなものですね。もともとストレートの糸に、熱と撚りを加えてボリュームを与え、糸をフワフワにするんです。そうすることで生地自体の厚みが増したり、手触りが柔らかくなったり、風合いがよくなります。

うちで加工した糸は、いろんな用途で使われています。大手衣料品メーカーさんの女性用のウルトラストレッチパンツの緯糸や、大手インテリア会社さんの遮熱カーテンにも、うちの加工糸が使われています。糸のかさ高性を高めることで、光が入りにくくなるんです。その他、医療用途や、カーシートの裏地だったり、スポーツのユニフォームに使われることもあります。スポーツウェアで、着たときにヒヤッとするシャツは、うちの加工糸の機能が活かされたものです。

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加工された糸

―― へえ。着てヒヤっとするというのも、糸の力なんですか。

昭都史さん:加工した糸の力ですね。糸が、熱を吸い取るんです。


―― 繊維メーカーさんから、「こんな生地を作りたいから、こんな糸を作ってほしい」といったオーダーがくるのですか。

昭都史さん:繊維メーカーさんからは、生地の開発段階で「こんな生地にしたい、こんな機能を持たせたいのだが、糸でなにかできないか」とかというような相談を受けることが多いです。そこで私たちから「この糸と糸を組みあわせたらどうでしょう」というふうに提案をします。実際に試作をしてみて望んだ効能が出なかった場合は、糸の種類や組みあわせを変えてみたり、割合を変えてみたりと試行錯誤をくり返します。だから開発段階はけっこう時間がかかりますね。

単品の糸でボリュームを上げるだけの加工であれば、すぐできるものなんですけども、異なる性質をもった糸を合わせて、それぞれの機能を1本の糸に盛り込むという開発をしたりするんです。そうすることで肌触りが良くて、かつ、ストレッチがあるような、複合的な機能を持った糸ができるわけです。

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三代目となる昭都史さん

特別ではないことだけれど、一つ一つを手に取って

―― 村昭さんの製品や技術のポイントを教えてください。機械産業って、同じ機械を使えば、同じような商品ができるんじゃないかと勘違いされたりすることもあるかと思うのですが…

昭都史さん:確かに、最近の機械は性能も高くて電気制御ができるようになっているので、昔ほど操る職人の技術に依るところは減りました。けれども、機械を購入してそのままオートマチックに使うわけではなく、糸に合わせてモディファイ(一部を変更)して、スムーズに糸の加工が行えるよう工夫を施します。

それに、1台の機械に対して108本の糸が同時に回った状態で加工するので、糸の通る道が少しでもずれていては、大量に変な糸が作られてしまいます。だから1日1回、「糸道点検」として糸の流れる道が正しいかどうか、目視で確認しています。これも、同じ機械を使っているからといってどこでも同じようにできるわけではないですね。

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工場の中では若いスタッフがテキパキと働く

うちの会社の一番の特徴は何かというと、やはり「品質」でしょうか。

基本的には仮撚加工専用の機械があって、その機械で糸を加工するという作業なんですが、うちでは機械で加工された糸の玉をすべて品質チェックしているんです。海外の工場でもうちと同じ機械を使って加工糸を生産しているところがありますが、できたものの一部だけをチェックする、いわゆる抜き打ちテスト形式を用いているところが多いです。それではどうしても品質にバラつきがでます。

うちの場合は、1玉、1玉、すべてを、人の目と手で検査をしていくんです。見た目の検査はもちろんしますし、実際に糸は織ったり編んだりしてから製品として使われるものなので、1玉ごとにサンプリングした糸を編み、さらに染めてみて、色がちゃんと安定しているのかというところまで検査していています。糸の太さ、細さ、種類もナイロン、ポリエステルなどいろいろとありますし、用途も異なるので、すべての玉に対してチェックをするんです。1日3000玉、月で450トンくらい加工をするので、検査もなかなか大変です。

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加工した糸を編んで染め、色むらなどを検査する

―― それは地道で、手間と時間がかかる作業ですね。

昭都史さん:大変なことですけれども、それが製品の品質につながっているんです。手にとって外観に汚れがないか、毛羽立ちがないかを見る。さらにそれを編んで染めてみる。検査自体は大したことではないんですけども、要は、一つ残らずやること、そして、それを毎日続けているというところが、品質の差につながっていると思っています。


―― 特別なことはないけれど、手に取り一つ一つ丁寧にチェックする。それこそ、人間にしかできないことなのかもしれないですね。そして、なによりそれを続けるということこそ、実は一番難しくて意味のあることなのかもしれない。

昭都史さん:私たちは、糸そのものを開発できるわけではないんです。メーカーさんが開発した原糸を、求められる機能に合わせて加工していくことが、私たちに与えられた使命です。それでもやっぱり、求められるものは「いい糸」「品質のいい糸」なんです。メーカーさんもコストがどんどん上がっているので、原糸を国内で生産できなくて海外の工場に委託したりします。そうするとどうしても、原糸自体の品質が落ちてしまうことがあります。けれどもうちを通じて加工することによって、「いい糸」に生まれ変わる。そこに私たちの価値があるのかなと思います。

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一本の糸から、世界へ

理想的な世代交代

―― ところで、お二人ともお父さんの「後を継ぐ」という形ですが、迷いなどはなかったんですか。

昭代史さん:私は先代の仕事を見ていて、後を継ぐことは当たり前だと思ってきました。だから大学を卒業してすぐ、うちの会社に入りましたね。

昭都史さん:私も後を継ぐことに迷いはなかったのですが、勉強という意味も含めて一度、外に出たいという意識がありました。そこで、大手電機メーカーさんに就職し2年ほど勤めました。その後は大阪の取引先の繊維専門商社さんで、また2年ほど下積みをさせていただいて、こちらに戻ってきました。


―― 大手企業から中小企業に戻るギャップはありませんでしたか。

昭都史さん:大手企業は大手なりのやり方があるのでとても勉強になりました。ただ、大手企業ともなると、当然たくさんの方が働いています。自分がいなくなってもまた誰か代わりが来るし、あくまで自分の与えられた責務をやっていくことに重きがあるという印象を持ちました。それが、うちのような中小企業では社員全員が大事でありますし、一人ひとりが役割を果たさないと仕事が成り立たないんです。その点は、いい意味で大きな違いを感じましたね。

実は私、中学卒業後からスイスに単身留学しているんです。普通に考えれば、近隣の高校に進学するのが妥当だったんですけれど、なんとなく悶々と「そんなことをしていていいのだろうか」と思っていて。そのとき、たまたま留学に関するダイレクトメールが届いていて、受けてみようかと思ったんです。実際にスイスの学校で3年間学んだことで、だいぶ考え方も変わりましたし、いろんな意味で勉強になったと思っています。父は受験にも付いてきてくれましたし、合格をもらってから後、「これでいいのか」と迷ったときも、後押ししてくれたことには感謝しています。

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昭都史さんと、現・代表取締役社長の昭代史さん

―― 当時だと珍しいですよね。お父さんは反対しなかったんですか。

昭代史さん:自分も大学2年生の夏休みにね、2ヶ月くらいドイツの夏期講座に留学していてたことがあるんですよ。だから、自分の子どもには海外の経験をさせた方がいいなという思いがあったんです。メーカーや商社とのやり取りにも英語力があると強いですし。今もミャンマーのスタッフも採用していますが、彼が交渉なりをやってくれるしね。中小企業であっても、世界とつながって、世界に発信しているっていう想いでやっていかないといけないと思ってます。

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昭代史さんは、末森城合戦にもお詳しい

―― お話をお伺いしていると、なんとも理想的な親子関係だし、理想的な世代交代がなされている感じですね。

昭代史さん:そうだよ、なかなかできないですよ(笑)。

私が新卒で会社に入った時は、年齢が高い先輩ばかりで、ジェネレーションギャップもあるし、いろいろと苦労したんです。だからこそ、私が社長に就任したときは、新卒者の採用を心がけてきた。今、中心的にがんばってくれているメンバーは、そのときに採用したメンバーですし、ちょうど息子と同世代になります。50人足らずの会社ですからたくさんの採用はできないですが、今でも同じように、毎年1、2人は新卒者を採用しています。リクルート活動や、労働条件、設備も含めて、時代の環境に適応していかなきゃ企業って残れないから。そういう意味での努力はし続けています。

昭都史さん:正直、僕らのやっている仕事は裏方です。何に価値があるかというとやはり「地道なことを続けていくこと」なんです。最近の子たちは、よりももっと華やかに見えるところのほうに惹かれますが、実際に働いてみて、やりがいがわかってもらえるとまた違うかなと思ってます。そういう意味でも、これからは私たちが作っている製品がどこに使われているかということも含めて、アピールしていく必要があるのかなと考えています。


―― 素晴らしいですね。
さて、いつも一番最後に、みなさんにとってお仕事する上での「宝」を聞いているんですけども。お父さん、これはもちろん…

昭代史さん:息子だな(笑)。そしてもちろん社員のみなさんも、大切な宝だね。


(取材:安江雪菜 撮影:下家康弘 編集:鶴沢木綿子)