ーー ん?「モデル」って、あの「モデル」ですか?
真治さん:そう、ファッションモデルです。 うちの奥さんはもともとヘアメイクの仕事をしていて、そのつながりでキャスティング会社の方に声をかけられたんです。自分ではそんな華やかな世界に縁はないと思ってたんですけど、「ちょっとオーディション受けてみたら」と誘われて受けてみたら、たまたま合格して。それで東京コレクション※に出演することになったんです。
※東京で毎年2回開催される、ファッションショー。高級ブランドが新作を発表する。パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークに次ぐ世界的なコレクション
ーー からあげの話をうかがう心算だったので、突然の展開にとまどっています。
真治さん: 今思い返すと、芸能界で活躍する俳優さんやモデルさんなどそうそうたるメンバーが周りにいたショーでした。僕はその中で一人、何もわからない素人だったのですが、自然な雰囲気が好みのデザイナーさんだったので「普通にしていていいよ」と言われて。 ウォーキングの練習もしませんでしたし、基本的なことさえも教えられないまま、ランウェイを歩きました。
正直、ショーに出ている時は全然楽しくなかったんです。わけもわからないし、ショーが終わった後も「こんなので良いのか?」と漠然としていました。でも、出来上がった写真や映像を見たり、周りの人から「出たいと思っても、なかなか出れないショーだよ」なんて言われてるうちに、良い経験させてもらったと実感するようになったんです。そこから「俺、もしかして料理やるよりも、こういう世界のほうが向いてるんじゃないか?」って思いはじめました。
それで、役者を目指すように。
ーー 役者。
真治さん:ショーでいろんなモデルさんを見た時に、同じ人間だとは思えなかったんです。身長が大きくて顔が小さくて。さすがに自分がモデルとして本格的にやっていくのは無理だなと感じたので、役者かなと。それで、事務所に所属して役者の学校にも通いました。
ちょっとずつですが、役をもらって映画やドラマに出られるようになったんです。でも全然食べていけない。出演料は微々たるものだし、出番がなければしっかりアルバイトをできるんですけど、出番があると撮影に行くので逆に生活が苦しくなっていくんです。
ーー 芸能人の若き頃の苦労話とかで、よく耳にしますよね。
真治さん: そろそろ役者歴10年にさしかかろうとしている、そんなある時、有名女優さんと絡むシーンがあったんです。現場にはたくさんの大物俳優さんたちがいました。その光景を見つめながら、ふと、「俺は、この先こういう場所で生き残っていけるのだろうか?」って考えたんです。
役者を目指しはじめた頃は、夢を見ているみたいな感じで何もわかっていなかったけど、ステップアップしていくうちに、自分がこれからやっていこうとしている場所が具体的に見えたという感じでしょうか。「ああ、ちょっと無理だな」と思いました。
その撮影をきっかけに、役者は辞めました。32歳の頃ですね。