ーー そうおっしゃらず(笑)。松浦さんのところでは代々、糀を作っておられるんですか。
正光さん:ほうやね。わしで四代目になります。創業は明治のはじめくらいか、そんなもんやと思う。わしは生まれも育ちもずっと宝達志水町で、町外に勤めたこともあったけど、一人っ子やったし親も戻ってきてほしかったみたいやから、2年ほどですぐに戻ってきたね。それで、親父の仕事を継いだっちゅう感じやね。うちはもともと、田んぼ仕事の合間に糀だけを作っとったんやけど、わしの代から味噌づくりもはじめて、今は生糀と味噌の両方を作っとる。「大根寿し、かぶら寿しの素」として、甘酒も売っとるよ。
昔は、糀は冬にしか売れんかったけど、塩糀の人気もあってか、ここ10年間くらいは、一年中糀を作っとるね。一番忙しいのは12月から3月頃で、それ以外は、畑仕事をしたり、藁の菰(こも)※を編んだりして冬の準備をしとることが多いかね。
※糀を発酵させる時に、糀にかぶせる藁の蓋
ーー 生糀って、今では、めずらしいですよね。
正光さん: 乾燥糀を販売しとるところはあるみたいやけど、生糀は手に入らんみたいやね。生糀は常温で3週間くらいしか日持ちせんから、作っとるところも少ないみたいやわ。
うちは本当に、昔のままの作り方をしとるよ。研いだお米を一晩水につけて、蒸し器で蒸す。蒸したものを一度冷やしてから、室(むろ)※の中に丸二日入れて、発酵させる。室の中の温度は、ほとんど勘で調整しとって、温度計も入っとらん。糀づくりにはこの温度管理が大事で、うまくいくと糀菌が発酵して花が咲いたみたいになるんやわ。でも、この花を咲かせるのが難しくてね。技術的には、10年くらいかかると思うね。
※麹菌を発酵させるための部屋。温度、湿度が一定に保たれている