PROJECT

宝のお仕事自慢

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#13

志雄自動車販売

国道159号線を能登方面にすすむと、左手にみえる「志雄自動車販売」の青い文字。
工場とひと連なりになった事務所の引き戸をガラガラとあけると
そこに広がるのは、少し不思議な空間です。

自然光が注ぐあかるい部屋のなか、
地域の人たちがゆったりと腰掛けてコーヒーをすすり、
他愛もない話が尽きることなく交わされる。
窓の外には一面に広がる田んぼ。
その景色を眺め、ほがらかな笑い声を聞いていると
車屋や整備工場へ抱いていた印象は、どんどんと変わっていくようです。

人と話をするのは得意じゃない。車のことも別に好きってわけじゃない。
だからこそ、自分ができる仕事に、一途に、とことん向き合う。
車だけではなく、それを持つお客さんのことを、考えられる。

車のことで困ったとき、ここに立ち寄ればきっと、なんとかしてくれる。
そう思わせてくれる、
真摯という形容がふさわしい、志雄自動車さんのお仕事自慢。

自動車も、別に好きってわけじゃない

―― 志雄自動車販売さんについて、おしえてください。

坂本さん:志雄自動車販売は、昭和35年に父が立ち上げた会社です。今年(2018年)の7月に代替わりして、今は僕が代表をしてます。基本的には、僕ともう一人の整備士、事務と経理、保険担当の姉、3人でやっています。

仕事内容は、主に新車と中古車の販売、修理、車検。
あとは車の保険や、イベント時の傷害保険も少し取り扱っています。

うちは、修理といっても車だけじゃなくて、エンジンがついてるものならなんでも直すよって感じなんです。草刈機とか発電機とか、トラクターの修理もするし。それに、自転車のパンクも直すし、長靴に穴が空いたのも修理できます。そういう仕事も、車の修理の箸休め的な感じで楽しくやらせてもらってます。

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代表取締役の坂本真悟さん

―― 昔から自動車が好きだったり、会社を継ごうと思っておられたんですか。

坂本さん: 正直、親の仕事を継ごうとは全く思っていなかったです。本当に成りゆき。自動車も、別に好きってわけじゃないし(笑)。

僕は、高校を卒業してから大阪の大学に進学して、そのまま大阪で先物取引の会社に就職したんです。けれど、仕事内容が合わなくて退社しました。一応、実家の仕事のこともあったので、23歳の時に名古屋の自動車整備の専門学校に入り直して、2年通いました。ただ、卒業後も実家を継ぐつもりはなくて、金沢にあるカーディーラーに入社して、7年間、整備と営業を経験しました。

父から「戻ってこい」って声がかかったのは、今から5〜6年ほど前ですね。その時も「え?」っていう感じでしたけれど、姉やもう一人の整備士とも話をして、守らなくてはいけないのはお客さんであって、僕が意地を張っていてもしょうがないと思って、戻る決断をしました。

父とは、数年間一緒に働いたんですけど、父の昔ながらのやり方に共感できないところもあります。だから今は、「継いだ」というよりも、「新しく会社をしている」って感じで考えています。

あの頃はできないことを無理にやろうとしてた

―― 新たな会社として、こうしたいとか、考えておられることはありますか?

坂本さん:まず、”あきらめたくない”ですね。お客さんにできるだけのことは精一杯してあげたい。「そんなのできんわ」とは言わずに、なんとかしてあげたい。だからまず、お客さんと話をすることは、一番大事にしています。

こんなこというのもなんですけど、僕、すっごい人見知りなんです。派手な営業って、絶対できない。最初に勤めた先物取引の会社は、すべて飛び込み営業だったんですけど、それが本当に苦痛で。軽い対人恐怖症のような状態になってしまったんです。携帯電話が鳴るのも怖いっていう感じ。でも、後々考えると、あの頃はできないことを無理にやろうとしてたから、苦しかったんだと思うんです。できることを一生懸命やればよかったな、と。

―― 今は、自動車のことだったら、内容もわかるし、お話もできる。

坂本さん:そうなんです。先物って見えないモノの話をするから。たとえば「大豆どうですか」とか「あずきどうですか」って言っても、自分で実感がない。自動車なり、草刈機なり長靴なり、目に見える物があって、それに対してお客さんが困ってる。それなら、「こうしましょう」って言うことはできるんです。

今、町の人口は減っていますけれど、幸いなことにうちのお客さんは減ってないし、若い世代も増えています。ただ、若い世代は車に興味がない方が多いので困ることもあるんです。「軽自動車の中古車で、30万円くらいなら、どんなんでもいいわ」とか(笑)。そんな時こそ、丁寧に聞き取りするようにします。 もちろん、お客さんによってはもどかしいって言われることもあります。「お前が決めてくれよ」って(笑)。でも、車は大きな買い物だし、お金を払うのはお客さんなんで、お客さんが納得のいくのが一番かなって。

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見積もりなんていいから、早く直して

―― 前の職場と今では、 お客さんとの関係性は変わりましたか?

坂本さん:全く違いますね。たとえばディーラーでは、車を預かってから、まず見積もりと仕上がり時期の連絡をするのが、あたりまえ。お客さんと連絡が取れなくて整備が進まないっていう問題も起こります。それがこの町では、「見積もりができたら電話します」って言ったら、「そんなのいいから早く直して」って(笑)。「かかったもんはかかったもんや、お前らに任せたんやし」って言われて、最初はすごくびっくりしました。でも、お客さんがうちを信頼してくださってるからだし、その分、信頼を裏切りたくないなと思うようにもなりました。

―― そういう意味では、坂本さんご自身、お客さんによって変わったところがあるのかもしれないですね。

坂本さん:変わりましたね。昔は、単にきっちりしなくてはいけないと思っていたけど、人間関係を築き上げておけば、暗黙の了解で信頼ができるんだなって気づきました。

だから、今後も、ネットで車を販売したりということは全く考えていなくて、うちに来てくれるお客さんを大切にしたいと思っています。店に気軽に遊びにきてほしいし、コーヒーくらいなら出せます。雑談の中で、自分の子どもがそろそろ免許を取るとか、家族の誰かの車検が近いとか、車の話がでる。そうすれば、僕も話をしやすいんです。

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普段からお客さんが訪れてお茶をしていくそう。右は真悟さんのお姉さん

「そんなもん」で、あきらめたくない

―― どんな種類の車の修理も、受け付けておられるんですか?
   例えば、アメ車とか。

坂本さん:外国車の修理も受け付けてます。正直ぶっちゃけると、変わった車はできれば触りたくない(笑)。日本車とシステムも違うし、壊したらどうしようっていう怖さもある。でもお客さんに「なんかしてほしい」って言われたら、「じゃあ、なんかするか・・・」って(笑)。

そんな時は、”人間がつくったものは人間が直せないわけない”と考えるようにしてます。物理的に壊れているわけじゃない限り、アメリカ人がつくったものであろうと、日本人がつくったものであろうと、人間がつくったものなら、何かできるはずって。

―― ”人間がつくったものは人間が直せないわけがない”。
   そう思うに至ったのはご経験から?

坂本さん:ディーラーでの経験からかな。ディーラーって、修理をある程度の時間で区切ってしまうんです。だから、時間がかかりすぎるものは修理不可能になる。その時に、お客さんに対してよく言っていたのが、「そんなもんですよ」って言葉だったんです。お客さんにすれば、長年愛用した車だし、まだまだ乗りたくても、ディーラーの人から「そんなもんですよ」って言われたら、「そんなもんか」ってがっかりするしかない。僕も整備士をやっていた時は、お客さんと接することもほとんどなかったし、正直、「そんなもんやわ」って思ってたんです。けれど営業をするようになって、お客さんから直接「壊れた車を見せに行ったら、そんなもんですよって言われた」と聞いて、ふと「そんなもん」っておかしいなって感じて。せめてもう少しお客さんの立場に立って、車を見てあげればよかったんじゃないかなって。実際、時間をかけて修理をしてみたら、ちゃんと直ったりする。それからは、やっぱり”人が作ったものは人が直せないわけがない”な、と考るようになりました。

今は、どんな車でもどんな故障でも、人間がつくったものなら直せると信じて、できる限りの事をやってやろうと決めてます。

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きちんと整頓された工場の中。真悟さんの人柄が表れている

―― 最初におっしゃっていた、”あきらめない”ってそういう意味なんですね。直らないものはないと信じて、とことん直す、と。

坂本さん:僕の中で、整備士って車の医者なんです。 医者って最期の砦なんですよね。病院でお医者さんに診てもらう。そこで医者が「もうダメですね」って言ったら、僕たちは、あきらめるしかない。でも一生懸命になってくれるお医者さんもいる。それって車の整備と全く同じだなって。 この規模の会社だから時間をかけられるし、お客さんも融通がきく。僕らがあきらめたらそれで終わりになってしまうので、最後に粘ってなんとかしてやるぞってことなんです。お客さんに「もう直らんって言われた。廃車にするわ」と聞いたら、「もう1回だけ、試しに見せてみて」って声をかけます。それで直ったら、やってやったぜって感じ(笑)。

だから、うちのお客さんは、古い車とか長い距離を走ってる車がすごい多いんです。都会だと10万キロって聞くと使い古された車だと思われますけど、ここでは「10万キロなんて、まだまだ子どもやね」って感じです(笑)。もちろん日頃からお客さんには、メンテナンスをちゃんとしましょうって、はたらきかけてます。通常のオイル交換でもおろそかにしたら絶対車は壊れます。車も人と同じで、きちんとメンテナンスしてあげることによって、長持ちするんです。

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そう言われてみれば、医療器具に見えてくる・・・

―― 最後に、坂本さんにとって仕事をする上での宝をおしえてください。

坂本さん: こればっかりは聞かれると思ったので、前もって用意してきました(笑)。僕にとっての仕事をする上での宝は、お客さんの笑顔だと思います。

笑顔って感謝してもらってる証拠だし、それが生み出せないんであれば、仕事じゃないなって思うんです。僕らはお金を請求するけれど、それをお客さんが笑顔で持ってきてくれるっていうのが、すごく嬉しい。だから、出しにくい請求になるような仕事は絶対したくないし、胸張ってお客さんに請求書を出したいと思っています。

それに、何か嫌なことがあってもお客さんと話をすると和むし、お客さんが「この前ありがとう」って言ってくれたら、また次もちゃんとしようって思える。それが積み重なって、次、次って、仕事をするための原動力になっているんです。

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―― 車の仕事にかかわらず、響くお言葉ですね。ところで、取材の前にNHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」を見て勉強したって伺ったんですけども・・・。

坂本さん:あ、はい・・・。かっこいいこと言おうと思って(笑)。ただ、僕が見たのは、市川海老蔵さんの回だったんで、モノが違いすぎて、まったく参考になりませんでした(笑)。



(取材:安江雪菜 撮影:下家康弘 編集:鶴沢木綿子)