PROJECT

宝のお仕事自慢

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#02

バイク市場 Captain(きゃぷてん)

ぶんぶんぶん、エンジン音を響かせて
黄緑色の建物めがけてやってくるバイカーたち。
店内で交わされる、「よ!」「おう!」の親しげな挨拶と明るい笑い声。
初めて訪れる人にだって、壁はない。

ずらっと並んだピカピカのボディ。
それを見つめる、きらきら輝く瞳。
日夜繰り返される、あついバイク談義、旅のプラン。

きゃぷてんのスタッフたちを見ていると、
なんだか、こんな声が聞こえてくる。
――好きなものが同じ、だから仲間さ、あたりまえじゃないか。
一生懸命遊び、楽しく生きる、いいじゃないか。
それが人生だろう、と。

ある意味、このお店は、とってもデンジャラス。
ロマンに満ちた、シンプルで気持ちの良い彼らの生き方に影響されて
ついつい「きゃぷてん!」と声かけて、
その背中に付いていってしまいそうになってしまうのだ。

ゲテモノ?この店ならではの特殊なバイクの数々と、ちょっとした苦労話

――いろいろな種類のバイクを扱ってらっしゃいますね。

進さん:在庫は常時、新車・中古車あわせて120~150台位、確保しているよ。1階と2階に商品を置いてあるんだけど、下の階には特に、三輪車とかオートバイを改造してつくった「ゲテモノ」ばかりを取り揃えてる(笑)。そういう乗り物を扱っているところは、全国的に見ても珍しいと思う。大手のチェーン店以外だったら、県内では、うちだけなんじゃないかな。

――お店のなりたちを教えてください。

進さん:「きゃぷてん」というのは、京都にあったレストランで、僕はそこに4年間勤めてたんだよ。その後のれん分けしてもらって、羽咋病院の裏で「軽食喫茶 きゃぷてん」としてお店をはじめた。だけど、能登で軽食喫茶店を開業しても、なかなか食べていくのが大変だったね。

ある時、店のお客さんから「バイクの免許をとったんだけど、マスター、良いバイク知らない?」と、問い合わせが来たんだよね。僕は昔からバイクが好きだったし、喫茶店のお客さんも僕がバイクを好きなことは知っていたから。

それで、まあ、気がついたら、ここに至るって感じかな。

――ずいぶん、話が飛びましたね(笑)

進さん:苦労話をしたって、仕方ないじゃない。
どうしてもって言うなら話すけど(笑)。

バイク屋を開業しようか悩みながら、喫茶店に併設してバイクを展示したりしてたんだよね。30歳で二輪整備士免許などの資格も取った。でも、単独のバイク屋を開業するほどのお金はなかった。僕が取り扱いたいと思うようなバイクは、中型以上のスポーツバイクだから。銀行にも融資の相談に行ったんだけど、まだ信頼関係も築けてなかったし、開業できるほどの金額は貸してもらえなかった。

そんな時、知人から、千里浜インターの近くにガソリンスタンドを建てるから、「テナントとして一緒にやらないか」という話をもらったんだよね。そこで、思い切って喫茶店を辞めて、バイク屋としてガソリンスタンドのテナントに入った。決して安くない家賃を払いながら、10年間、なんとかバイク屋として営業をがんばったよ。そうしたら、銀行が努力を理解してくれて、「じゃあ、自分の店やってみる?」って言ってくれたんだよ。銀行のサポートを受けながら、この場所で店を建てて営業をはじめたの。それが平成12年かな。

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代表取締役の中村進さん

いい意味で、バカで楽しい仲間たち

――ツーリングするには、店の前の道路の国道159号線は、景色も良いですし、バイカーも多く通るのでは?

進さん:景色で飯は食えないね(笑)。のと里山海道ができてからは、県内外のバイカーも車も、能登へのアクセスには、のと里山海道を使うことがほとんどになってしまったね。

と言っても、移転したりするつもりは全くないよ。うちは特殊な商品を扱っている商売だから、欲を出して「もっともっと」となると、手が回らなくてお客さんに迷惑をかけることになる。今がちょうど良いのかもしれないね。

――通りすがりで買う品物でもないですしね。

進さん:通りすがりで買ってくれたお客さんもいたけどね。ガラス越しに見て気に入ってくれたお客さんが、通りすがりに500万円のバイクを現金で購入してくれた。びっくりだよね(笑)。

あと、こんな人もいたな。うちの店は夜20時に閉店なんだけど、17時頃に「今から買いに行くから商品を用意してくれ」って電話があった。「たしかお客さんの住まいは伊勢だったよね」と聞くと「そうだよ。でも大丈夫、閉店までに間に合うから」って返事がきて。なんとその人、伊勢から自家用ヘリに乗って、バイクを買いに来たんだよ(笑)。富山空港でヘリを降りて、そこからハイヤーでうちまで。帰りはうちで買ったバイクに乗って帰っていったよ。

バイク乗りは本当、いい意味で、バカが多いかもしれない。あても無いのにただ走り出すし。それが楽しいんだよ。

――サンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー(通称SSTR)の拠点になっているそうですね。ラリーについて、教えてください。

進さん:日の出から日没までに、太平洋から日本海まで日本列島を横断するアドベンチャーツーリングで、土曜日の朝、太平洋側のどこでもいいから出発地点を決めて、そこで日の出の写真をスマホで撮って本部に送ってスタート。各自、自由なルートで、夕日が沈むまでに千里浜にゴールするというレース。

レースと言っても、時間やスピードを競うのではなくて、「どれだけ楽しめたか」を競うのがこのレースの面白いところ。レースの中で一番大事にされるのは、「こんなことあった、あんなことあった」という報告なんだよね。その内容によって表彰したりもしてる。本部が一番大変だよね。本部には、参加者全員、2千人以上のレポートが届くし、そのレポートを全部読まなくちゃいけないから。

きゃぷてんは、ゴール地点で、縁の下の力持ち役をやってる。お客さんを受け入れている「風間事務所」のボランティアサポートだね。そもそもSSTRは冒険家の風間深志さんが考えたイベントで、それを僕らが受け入れて、手伝っている。

――バイクに興味が出てきました。

進さん:車の免許あれば乗れるものもあるよ。オートマ限定でも大丈夫なトライクというバイクもある。店内にいろいろ置いてあるよ。

もし二輪車免許を持っていて久しぶりに乗る場合は、自動車学校横の側道とかで、ちょっと練習してみてから乗った方が良いよ。オートバイはひっくり返って少しでも怪我したら、もう二度と乗らなくなるから。それは、寂しすぎる。

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きゃぷてんではお客さんとのツーリングイベントも行っている。日帰りは毎月、1泊ないし2泊は年に2回。20~50台程度で走る。店内にはSSTRをはじめ、各イベントの写真がアルバムにまとめられている

家族以外の宝なんてありえない

――ご出身は宝達志水町ですか?

進さん:僕の出身は羽咋市内の田んぼの中の集落。
だから、今の場所に店を建てることになったのは、本当に、たまたまなんだよ。整地してあって安い土地だから、ここを選んだ。前の持ち主の名前が「中村」っていうのにも、縁があるんじゃないかと勝手に考えたけどね(笑)。

――この町の好きなところをおしえてください。

進さん:いい意味で、住民の方が干渉しないことかな。この仕事をする上では、バイクの整備中とかはどうしても大きな音が出るので、許容してもらえることはとてもありがたい。

――ところで、従業員のみなさんもとても仲良さそうですね。

進さん:ほとんど家族だからね。俺と息子、俺の嫁、息子の嫁。母親も働いてる。従業員の二人も家族だよ。うちの家系はみんな19歳で親になってるんだけど、今、孫が16歳で、もし孫に子どもができたら4世代だよ(笑)。ひいじいちゃんになっちゃうな。

仕事上の宝をおしえてください。

進さん:家族以上の宝なんて、ないでしょう。カッコつけてるんじゃなくて、本当のことを言うと、誰だってそうだと思う。

あえて2番目を言うなら、かたちはないけど、僕にとっては仕事かな。仕事があるから、仕事にかこつけて旅にも行ける。僕らは嫌々、仕事をやってるわけじゃない。好きなことに従事できるのはありがたいことだね。

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ペットのばうちちゃんも、大事な家族の一員

世代を超えて続く、フリーな生き方

――最後に、もうすぐ社長をバトンタッチされるという、息子の光さん。一言お願いします。
バイク屋を継ぐということに対してどう思われますか?

光さん:僕は、物心着いたときから周囲にバイクがありましたから、あんまり深く考えずに後を継いでいます。なんとなくフリーで、生活に絶対的に必要ではないものと戯れる。そういう適当なところが良いな、と思っています。

社長とは考え方が少し違うかもしれないですけれど、僕はこれから、店頭販売以外の活動にも積極的に協力していきたいと思っています。たとえば先日は、羽咋の道の駅千里浜のオープンに伴い、古いホンダ・カブ※を寄付したりもしました。イベントなどの手伝いも行っていきたいですね。

※カブ:HONDA(本田技研工業)が製造・販売する小型オートバイ。


――このまちの、好きな場所は?

光さん:今朝もドライブでふらっと行ったのですが、山の龍宮城が、一番好きな場所ですね。龍宮城から見える、緑があってその先に海がある、あの景色が好きですね。

(取材:安江雪菜 撮影:下家康弘 編集:鶴沢木綿子)

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「こんな状況はありえない」と言いながらも、カメラマンの要望に応じて親子二人乗りをしてくれた進さん、光さん。光さんが子どもの頃は当たり前の状況だったそうだけど