PROJECT

宝のお仕事自慢

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#03

さかもと葡萄園

宝達志水町の海側、千里浜からつながる砂地は、
いわずと知れたぶどうの名産地。
シーズンになると、道端にたなびくノボリを目印に、
あちこちから、その果実を求める人たちが集まります。

柳瀬にある「さかもと葡萄園」も、
そんな、町のぶどう生産を支える老舗葡萄園の一つ。
ここでは、広大な敷地の隅から隅に
約30種類もの色とりどり、さまざまなぶどうが
まるで我が子を育てるように、丁寧に育てられています。

果物って、土地柄や新鮮さは、あんまり関係ないんでしょう?
品種の違いは色と形の違い?
ルビーロマンって言ってもねえ。
なんて思っちゃあ、いませんか。

手塩にかけて育てられた、もぎたての一粒を味わえば、
そのはじける食感と、みずみずしい甘さに驚き、
別のひと粒を口に運べば、その香りと味の違いにわくわくし
さらにもうひと粒。
じわりじわりと、体中に幸せが染み込む心地。
もっと、もっと、もう一粒。
ふと気がつくと、すっかりこの果物の虜になってしまう。

さあ、宝の果実を生む、こだわりのシゴトを、ご賞味あれ。

あたらしい品種に挑戦しつづける、さかもと葡萄園の1年

―― さかもと葡萄園について、おしえてください。

坂本さん:宝達志水町柳瀬、千里浜の近くにある葡萄園です。直売所も併設しとるよ。ぶどう生産をはじめてから、かれこれ20年になるかな。もともと父親がはじめた葡萄園を継いだ形で、今も、両親も一緒にぶどうを作っとる。2ヘクタールほどの畑に、デラウェア、ルビーロマン、シャインマスカットなど、育成中のものも含めると、30種類くらいの品種を育てとるわ。

――30品種とは、すごく多様な品種を育てているんですね。

坂本さん:毎年、新しい品種を苗木屋さんから買って、いろいろなぶどう作りに挑戦しとるんよ。面白い品種とか、新しいものを試してみたくなるんやよね。今(2017年8月現在)、売り出し中なのは「雄宝(ゆうほう)」。シャインマスカットを親にもつ、皮ごと食べられる黄緑色の新しい品種で、実が一粒20グラムくらいの大粒になる。おすすめやわ。

―― ぶどう作りの1年の流れを、おしえてください。

坂本さん:1年のスタートは、収穫・出荷が終わった、秋の剪定作業からかな。枝の配置や芽の数も、この剪定で決まってくる。すべてハウスで管理して栽培しとるんやけど、ビニール張りを終えた春先から開花期は、温度管理がとても重要になる。春の天気の良い日は、ハウスのなかの温度が40度以上にもなったりするからね。

春に芽が出てから、夏にかけては、一つ一つのぶどうに「房つくり(房切り)」、大粒の場合は粒の「摘粒(粒の間引き)」といった作業を施して、養分を集中させて育てていくんやわ。腰をかがめて上を向いてする作業やから、いっつも肩こり解消のための塗り薬を塗っとる。

収穫、出荷の最盛期はお盆頃かな。その頃は、贈答用の箱詰めも佳境で、本当にその言葉の通り、寝る間を惜しんで作業しとる。夜9時に寝て、翌1時に起きるって日もあったな。

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取材時はサニールージュ、ピオーネ、ハニービーナスが店頭に並んでいた。その他、数十種類が収穫予定に

ぶどうは嗜好品。だからこそ、こだわる

―― ぶどうを育てる上で、気をつけていることなど、ありますか?

坂本さん:ぶとうって嗜好品の面があるでしょう?見た目がきれいで、もちろんおいしくなければ商品として成り立たん。おいしくなかったら、別に食べなくても良いもんやよね。それを食べたいと思ってもらうためにも、丁寧でこまめな栽培管理をしとるよ。例えば、光の取り入れ方とか、房の数の調整とか、水のやり方とか、工夫するところはたくさんある。

土作りも、大事や。うちでは、籾殻やおからをもらってきて、自分で堆肥を作って播いとる。化学肥料は極力使わないで、地力で作っていくっていう考え方やね。

それでも、いつでも試行錯誤や。百姓仕事に100点なんてないしなあ。毎年毎年、少しでも100点に近づけることを目指しとるけど、全部が全部、商品になるわけじゃないし、傷んだりと、必ずロスも出てくる。天気がよくない日が続くと、パンク(実割れ)したり、色付きが鈍ったり、見た目も商品の大事なポイントやからね。

―― 直売で買われるお客さんが多いですか?

坂本さん:そうやね。「ここのぶどうがおいしいから、また来たわ」って毎年買いに来てくれる。そういうお客さんがいることが、自分たちにとっては一番の肥やしやね。

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さかもと葡萄園を担う、肩書きが「百姓」の坂本省一さん

王様、ルビーロマン

―― 仕事をする上での「宝」を、いつもお伺いしているのですが。

坂本さん:ぱっと浮かぶのは、やっぱりルビーロマンかな。「宝石に一番ちかい」って名前からもね。うちのぶどうは、もともとデラウェアが大半やったけど、今ではルビーロマンが大黒柱になってきとるね。

ちなみに、ルビーロマンの生産量は、宝達志水町が県内で一番ねんよ。

―― そうなんですか。知らなかったです。ところで、登場した頃から、「ルビーロマンってすごい!」という印象をお持ちでしたか?

坂本さん:10年前の初せりの時、うちの葡萄園でも、2本だけルビーロマンを育てとったんやわ。でも、全部しぼんでしまって商品を出せんかってん。そのシーズンに、高松の生産者のルビーロマンに10万円の価格がついて。あのファーストインパクトはすごかった。自分はここでデラウェアの作業をしとったから、「こんなチマチマと、なにやっとるんやろう」と思ったよ。他の生産者も、それで火がついたところはあるんじゃないかな。

―― ドラマチックですね。
ルビーロマンを育てるのって、やっぱり難しいんでしょうか?

坂本さん:今までにはない作り方をするんやわ。他の大粒の品種であれば、1本の枝に一房つけるところを、ルビーロマンは、3本の枝に対して一房しか残さん。房数を減らして、栄養をゆき届かせて、粒を大きく、甘くしとる。

出荷基準も厳しいしね。一房ずつ検査場に持っていって、上から下から横から360度覗き込んで、色付きや傷んだ粒がないか検査する。一粒の大きさも、20グラム、直径31ミリという基準が定められとって、基準を満たしてないと、検査は通らない。検査を通らんかったものは、業務用とか、加工用に出荷することになる。

あと、自分のこだわりで、種ありのルビーロマンを少しだけ作っとる。今では消費者の人も、種ありのぶどうを避けるし、種なしの方が安定して栽培できるんやけどね。

―― 種ありのぶどうのほうが、実は栽培しづらいということなんですね。

坂本さん:花が咲く4月の時期に気温が低いと種が入りにくいから、暖房やストーブを焚いて、ハウスを温めることもあるわ。種が入った粒は大きいんやけど、種が入らない粒は小さいから、種の入っていない小粒をハサミで切り落として、粒の大きさを揃えたりするしね。手間はかかるわ。

―― そこまでして、なぜ種ありを?

坂本さん:種ありのぶどうは、種が養分を引っ張ってくるから、本来のぶどうの味がすると思っとる。でも、出荷基準にあわせにくいし、手間がかかるし、他の生産者の人も、種ありのルビーロマンはもう作ってないと思うわ。これは、自分のこだわりやね。

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宝石に一番近い果実、ルビーロマン。実がつまってはじけそう

宝の果実の衝撃の味

―― さて、失礼を承知でお伺いしますが、実際、ぶどうってそんなに味の違い、あるんですか? 

坂本さん:これ、食べてみる?試食用やけど、サニールージュと、ピオーネ。

――ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。
もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・
味が全く違いますね。酸味も香りも。サニールージュはデラウェアに近い味だし、ピオーネの方が、甘味が強いのかな。どちらもおいしい!うーん。全種類、食べ比べしたくなりました。ルビーロマンも食べたことがないし・・・

坂本さん:食べたことないって言われたら・・・これは今日だけの特別なサービスね。
一粒どうぞ。今日の朝採れたもんやわ。

――なんとこれはルビーロマン!
まさかルビーロマンを食べられる日が来るとは。
では、さっそく。もぐ・・・プチッ、じゅるっ・・・・・
・・・衝撃のみずみずしさと食感、加えて、凛とした香りと甘さですね。

坂本さん:ルビーロマンはやっぱり甘味が強いよね。上品な甘さや。粒が大きい分、食べごたえもしっかりあるし、皮もむきやすいから食べやすい。本当、宝のようなぶどうやと思うわ。買ったら早めに食べるのが一番。ぜひ、味わってみてほしいね。

(取材:安江雪菜 撮影:下家康弘 編集:鶴沢木綿子)

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ぶどう棚が入り口に心地よい木漏れ日をつくっている、入り口