工業製品ではないからこその、おもしろみ
孝之さん:僕の場合は、筆で絵を描くスタイルじゃないので、ある程度の予想はできても、焼き上がりを見るのはいつもドキドキしますね。窯から出した時に「おおっ!」ってつい言っちゃうものもあれば、「あっりゃー…」と頭を抱えるものも(笑)。失敗した釉薬のバケツもいっぱいありますよ。
――「あっりゃー」(笑)。でも、仕上がりがわからないからこその醍醐味があったりしますよね。
孝之さん:そうですね。基本的に、僕らがつくっているものは工業製品じゃないから、似たものはできても同じものはできないし、釜によっても仕上がりが違う。ちょっと歪みがあっても、それが味になったり。おもしろいですよね。
こういう仕事をしていると、作品は残るので、かつて自分がつくった作品に出会ったら恥ずかしいところもあるし、あの時これ良かったなっていうのもあるし、かつてつくった作品から改めてヒントを得たりということも、結構あります。
――作品にご自身のその時が現れているんですよね。制作にはどれくらい時間がかかるんですか?
孝之さん:制作自体は2、3日ですね。考えている時間が一番長いかな。昔、尊敬している先生に、「死ぬほど悩まないとダメだと。辞めてしまいたい、死にたいと思うくらいまで考えろ」って言われたことがありますけどね。
――では、その言葉を胸に、制作を続けられておられると。
孝之さん:いや、今はもう歳とっちゃったから(笑)。以前は作品にかかったら3日とか5日とか徹夜して悩んだりしていたけど、最近は妥協するのが早くなっちゃった(笑)。
――日展※の初入選が1989年。その後もよく、展覧会には出展なさっていらっしゃったんですよね。
孝之さん:そうですね。師匠が日展系の作家だったので、僕も日展系の展覧会に作品を出していました。最近は、僕も審査をする側になりましたけれども。
作品に対する姿勢や苦労は、皆さん同じです。先輩たちから意見を聞いたり、参考にしたり、勉強できる。そんなところに、展覧会に出展する意味があると思っています。意見を聞いた上で、言うことを聞くか聞かないは、本人次第ですからね。僕も「お前は一匹狼だな」とか言われましたよ(笑)。でも、全部言うこと聞いていたら何もできなくなるしね。
展覧会を通じて、人のつながりも増えました。展覧会のパーティを通じて知り合った星稜高校の山下智茂監督から、「(当時教え子だった)松井選手が三冠王を獲得したら、何か焼いてよ」って言われたり。結局、その年に三冠王は獲れなかったんですが、松井選手がニューヨークヤンキースに移籍することになり、門出の祝いとして、花器を焼いて贈りました。
※日展:日本美術展覧会の略称。公募展覧会の一つ。伝統的な技法を守りながらも、現代の生活に適合した新しい造形を追求する作品が多い。