舌で覚えた味を、継ぐ
―― 今後のお店の展望はありますか?
松田さん:僕には娘が3人いるんですけど、そのうちの一人誰かついでくれないかなと思ってるんですけどね・・・お菓子屋さんって休みは周りと合わないし、クリスマスは全然楽しくないし、大変だから、どうかなあ。
でもね、最近改めて、「続ける」ってとても意味があることなんだなって思うようになったんです。
―― ほう。
昔ね、お店がすごく忙しかったとき、ご飯じゃなくてケーキとか食べてたことがあるんですけど。マリーアントワネットみたいな感じで(笑)。
―― 超優雅ですね(笑)。
松田さん:一見ね(笑)。でも実際は、親が夜中近くまで仕事をしていて、忙しすぎてご飯が用意できない。でも幸いお菓子はいっぱいある。だから、食事の代わりにお菓子ばっかり食べてたんです。体にはあんまりよくないかもしれないですけど(笑)、そうすると不思議とお菓子に対する味覚がどんどん鋭くなるんです。
お菓子屋とか料理屋さんの子どもたちは舌が鋭いってよく言われますけど、知らず知らずに味が身に染み付いて、その「店の味」って生まれるんだなって思ったんです。子どもの頃から食べているものが指針となって、自分の中の味っていうのができあがる。だから、その指針にずれないように、自然においしいものが受け継がれる。長く続けるということって、そういう意味でもすごいことなんだと思うんです。
―― なるほど。飲食店において「継ぐ」って、単に名前を継ぐとか、店で働くってだけじゃないんですね。
松田さん: やっぱり続けるというのは大事だと思うんです。そこから松月堂の味が生まれるんだろうし、お客さんのニーズがある限り、田舎の町のお菓子屋さんでありたいとも思いますね。まあ、娘が継いだら、全く違う店になるかもしれないですけどね。パンケーキ屋さんとか(笑)。